従業員の仕事・会社への「誇り」を高めるには?

更新日 2024.03.292024.03.29対談

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2024年2月8日に開催した「Best Workplaces Award 2024 ~2024年版日本における「働きがいのある会社」ベスト100表彰式~」にて、『従業員の「誇り」を高めるには?』と題してトークセッションをおこないました。

登壇企業のブラックライン株式会社は、世界中の経理業務のベストプラクティスを詰め込んだ 経理変革プラットフォームをクラウドで展開しています。 従来の経理業務の常識を変え、世界中で4400社以上の進化・変革を支えています。

同じく登壇企業の株式会社Regrit Partnersは、「Issue Driven」:デジタルの活用ありきでなく、本質的な”問題解決”へのこだわり 「Scopeless」:問題解決のスコープは自ら限定しない 「Anti-Parasite」:クライアントの自立を徹底的に支援という3つのスタイルでコンサルティングサービスを提供しています。

今回はGreat Place To Work® Institute Japanの今野敦子がナビゲーターとなり2社の取り組みを深掘ります。

働きがいと「誇り」には相関関係がある

今野 今回は従業員の「誇り」をテーマにトークセッションをしますが、その前にGPTWの調査における「誇り」の位置づけについて少しおさらいいたします。働きがいのある会社モデルの中で最も「信頼」が大切であり、この「信頼」を高める5つの要素の一つが「誇り」です。仕事や会社の事業内容、商品、サービスなどに誇りを持てるかどうかが、働きがいを高めるキーファクターになります。

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「総合的にみて、働きがいのある会社だと言える」という質問との相関関係が高い設問5つのうち4つが「誇り」に関するものでした。しかしながら、「どこかつかみどころのない「誇り」という概念をどう伸ばしたらいいのか悩んでいる」という話を聞くこともあります。そこで、今回は「誇り」のスコアが非常に高い2社の代表をお招きし、「誇り」を高めるヒントを伺えたらと思います。 それでは、お二人から簡単な自己紹介をお願いいたします。 

宮﨑 ブラックラインの宮﨑と申します。我々は経理・財務部門の生産性を向上させたり、エクセルと格闘する業務を改善することに寄与するソフトウェアを提供しています。日本の経理・財務の方を非効率な作業から解放し、経営の羅針盤になっていただくことをVisonに掲げている会社です。

山木 Regrit Partnersの山木と申します。当社は2017年に設立された7年目の総合コンサルティングファームです。コーポレートトランスフォーメーションを通じて、エンタープライズ企業の課題解決を実施しています。

今野 早速ですが、「誇り」という捉えどころのない概念を、経営者としてどのように捉えていますか。  

宮﨑 実はこれまで「誇り」を強く意識することなく、GPTWの調査結果を見て、当社の「誇り」のスコアが高かったことに気づいたというのが本音です。

山木 私自身、コンサルティング業界に長くいて、その中で「誇り」を持ってクライアントを助ける仕事をしたいという思いで会社を立ち上げました。その思いが社内にも伝播していることがうれしいです。この「誇り」の高さを継続するために、「社内で再現性を生み出したい」と考えるきっかけにもなりました。

顧客の感謝の声を共有し、「誇り」を増幅させる

今野 GPTWの調査をきっかけに「誇り」をあらためて意識するようになられたのですね。そんなお二人に「誇り」を高めるためのポイントを伺いたいと思います。

talk_240329_03.jpg宮﨑 大きく3つのポイントがあるのかなと思います。

まず、「誇り」は自分自身で決意した瞬間から生まれる内省的なものです。次にお客様から感謝の言葉を得たときに生まれるものでもあります。そして、一緒に働いている同僚から感謝されたときに生まれるものとも言えると思います。

「誇り」が生まれた瞬間に消えてしまったら非常にもったいない。結果論ですが、弊社の中に「誇り」を増幅する仕組みがあったのかなと感じています。

弊社は数十名の規模の会社ですので、メンバーは挑戦心や決意を持って入社します。それに対して、我々は全ての経理財務を経営の羅針盤にするビジョンと、ここで働いたことで、将来人生を振り返ったときに誇りに思えるときが来ることを必ず入社時に伝えています。これが、内省的に生まれる「誇り」のきっかけになるのかなと。

その後、実務に入ってからは顧客の感謝の言葉を全社員が閲覧できるChatter Group (SalesforceのSNS)で共有しています。お客様と接点のあるメンバー、接点がないメンバーがいますが、接点がないメンバーもどんな感謝の言葉をもらっているか興味津々ですし、実際の言葉を目にしたらテンションが上がるものです。そこでもやはり「誇り」の感情が生まれ、増幅されているのではないかと思います。

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もう一つの「誇り」の増幅装置として、コアバリューを掲げて、ワンチームで働くことを非常に重要視しています。社員の一つ一つの行動が、コアバリューのどの内容と合致しているのか、例えば、「Passion& Fun」なのか、「Weclome Weclome」なのか、常に意識しながら仕事をしています。

もう一つ特徴的な取り組みとして、全社ミーティングで、ランダムに「あなたが感謝する人を90秒で褒める」ということをしています。全社員の前で褒められるので、褒められた側はびっくりしますがそれによって「誇り」が高まると思います。これらの取り組みが「誇り」が上がったキーポイントではないかなと分析しています。 

今野 感謝の共有の仕組みは素晴らしいと思いますが、なかなか継続しなかったり、形骸化が起こったりしがちと聞きます。続けるための工夫がありましたら教えてください。

宮﨑 おっしゃる通り、簡単な話ではなかったなと思います。私が弊社に参画したときに、経営陣がビジョンをつくりました。私も気に入っておりまして、「これで組織が一枚岩になるだろう」という期待がありました。ところが、数カ月経って社員にビジョンについて聞くと、半分くらいの従業員がビジョンを覚えていなかったんです。自分ごとになっていなかったのだと思います。

そうした背景があり、全社員が集まって自分たちでコアバリューを考えて、みんなで選んで、言語化しました。そのため、同僚からの感謝の言葉聞く、感謝の言葉を述べるというのは、自分たちでつくったコアバリューに基づいているので、良いサイクルが生まれ、自発的に褒めるカルチャーが生まれているのだと思います。  

サービスポリシーと優秀な仲間、成長環境の3つが「誇り」を育む

今野 ありがとうございます。山木さんにも伺いたいのですが、「誇り」を高める秘訣はどんなところにあるのでしょうか。

talk_240329_05.jpg山木 働きがいを高めるという文脈になると「心理的安全性」と「キャリア安全性」が重要だと思います。我々の業界の場合、ベースとなる労働環境やサラリーが高いため、「心理的安全性」は比較的つくりやすいです。そのため、「心理的安全性」での差別化は難しいと思っています。私たちは「キャリア安全性」を重視しているのですが、この「キャリア安全性」を構成する要素は二つあります。

まず一つめがサービスポリシーです。我々は本質的な課題解決に取り組むため、他ファームと差別化したコンサルティングスタイルを掲げています。 具体的には、「Issue Driven」デジタルの活用ありきでなく、本質的な”問題解決”へのこだわるコンサルであること。「Scopeless」問題解決のスコープは自ら限定せずに支援すること。「Anti-Parasite」クライアントの自立を徹底的に支援すること。の3つです。 

二つめは人事制度面の話です。当社では、人的資本への投資を重視しており、採用活動やメンバーの能力開発に力を入れています。

まず採用活動について、当社のビジネスは労働集約型ですので、とにかく採用に力を入れています。大体月600名の中途入社希望者がいるなかで選考通過率2%という狭き門を勝ちぬいた精鋭が集まっています。

次に能力開発について、当社では独自の取り組みである「コンサルティング+1」という制度を導入しています。

「コンサルティング+1」とは、コンサルタントにプラスして、営業など自社の経営機能を担ってもらう制度のことです。コンサルタントに不足しているのは、事業の解像度だと思います。当社はベンチャー企業ですから、日々仕事の優先度が変わる会社です。コンサルタントをしながら、変化の激しい会社の経営の一端を担うことは過酷とも思うのですが、そこを望んで入社してくれる従業員が集まっています。

サービスポリシーの遵守と、優秀な仲間の刺激、成長環境の3つが「誇り」を高めることにつながっているのではないでしょうか。

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「心理的安全性」よりも「キャリア安全性」を重視

今野 お二人のお話を聞いて、自己肯定感を高めることが「誇り」を高めることにも通じると感じました。日本の若者の自己肯定感は18歳がピークで、社会人になって下がるという調査もあるといいます。山木様の会社はすでに厳しい競争を勝ち残ってきた方々なので自己肯定感がそもそも高いかもしれませんが、自己肯定感を高める工夫などもあるのでしょうか。

山木 私は結局、仕事を通じて自己肯定感を上げるには仕事ができるようになるしかないと思っています。そのため、当社では敢えて目に見える優しさにこだわるのではなく、本人の努力に向き合わせ、その成果に対する素直なフィードバックを与えています。 時に厳しいフィードバックを与えるときもありますが、会社として個人の成長に責任を持つことで、メンバーが成長し、結果としてメンバーの自己肯定感も上がっているのだと考えます。

今野 山木様はGPTWの調査のすべてのスコアを追い続けるつもりはないとのお考えを聞きました。具体的にどのような項目を、それほど重要視していないのでしょうか。

山木 先程も少しお話しましたが、我々は心理的安全性に関わる設問は重視していません。心理的安全性よりもキャリア安全性に重きを置いているからです。

従業員には自分のキャリアのために会社を利用してほしいと思っています。当然上司は自分より優秀であり、重い責任を負っている。ダメなアウトプットに対しては、はっきりとダメだと言われ続けます。もちろんそれでへこんだり、くじけそうになったりもすると思いますが、それを上司が巻き取ってしまったらその人のキャリアのプラスになりません。

我々の会社にはブランドがないんです。社名では勝負できない。だからこそ、実力で箔をつけてほしいと思っています。そのためだったら、在籍中に当社のことを嫌いになってもいい。卒業したあとにいい会社だった、自分を高めることができたと思われる会社をつくりたい。僭越ながらそんな気持ちで経営しています。

今野 宮﨑様も同じようにあまり重視していない項目はありますか。

宮﨑 心理的安全性の観点でいくと、私たちのような50名くらいの規模の会社だと、誰が担当するかも決まっていない間に落ちる仕事だらけなんですね。放置すると大きな損失につながってしまうものもあります。

今より規模が小さいときは部活動という表現をしていました。とにかくみんなで解決する。そうすると、あっという間に時間が過ぎていくのですね。汗をかいて気持ち良くなってきて、スポーツのような感覚です。そういう組織に参加しようという決意を持っている社員は、心理的安全性を求めるより、間に落ちる仕事を取りに行く従業員を評価する仕組みであったり、対価を重要視すると思うんですよね。そこにすごく気をつけています。

今野 それが「誇り」にもつながっていそうですね。本日のセッションで私自身学びになったのは、「誇り」は狙って高めるよりも、各社の核となるものを磨き続けることが、結果として「誇り」の高さに繋がるのだということです。お二人とも本日はありがとうございました。  

ブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑 盛光様 プロフィール

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法政大学卒業後、日本リース株式会社入社。 GEグループの一員となり中小企業のファイナンス支援に従事。 2002年ニイウス 株式会社(NIWS)入社。大手金融機関担当営業部門の本部長などを歴任。2008年株式会社セールスフォース・ドットコム入社。 2017年エンタープライズ営業本部の執行役員、2019年同部、常務執行役員就任。 2021年ブラックライン株式会社代表取締役社長に就任。

株式会社Regrit Partners  代表取締役社長 山木 智史様 プロフィール

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ベンチャーのコンサルティングファームを経てアビームコンサルティングで新規事業策定等、戦略策定・プロセス改善のプロジェクトを経験。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングに転職し、金融業界向けの戦略策定~IT導入支援まで幅広いプロジェクトを経験。世界最大級のPEであるBlackstoneから出資を受け、パクテラ・コンサルティング・ジャパン株式会社を2人で創業。1年間で約6億円の売上実績と約200名の入社希望者や人材エージェントとの面接・交渉を経験。2017年に株式会社Regrit Partnersを創業し現在に至る。

<ファシリテーター>Great Place To Work® Institute Japan シニアコンサルタント 今野 敦子 プロフィール

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名古屋大学大学院経済学研究科(経営管理学)修了。
フランス国立ボンゼショセ工科大学MBAコース取得。
外資系航空会社、医療系商社の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズに入社。人事領域において、採用・制度設計・人材育成など一連の業務に携わる。
2009年GPTW Japan設立メンバーとして、事業立ち上げに参画。働きがいのある職場を目指す多くの企業などに調査分析、経営層への提言と支援を行う。

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